名古屋大学大学院情報科学研究科計算機数理科学専攻

計算機数理科学専攻

●教員紹介

神保雅一

(離散数学, 統計学) 研究室WEBサイト

主な研究テーマ

組合せ論とその応用

離散数学(組合せ論)は計算機科学をはじめ, さまざまな分野との接点を持つ数理情報科学のひとつの学問分野と言って良いのではないでしょうか。 一口に離散数学といっても,その中身は種々さまざまです. 例えば,数え上げ,グラフ理論,組合せトポロジー,符号理論,暗号の理論, 組合せデザイン,代数的組合せ論,有限幾何,組合せ最適化,アルゴリズムなど, その守備範囲はとても広範囲におよんでいます. また,離散数学そのものを研究対象とする人もいれば, その実際問題への応用,現象の中の離散的構造の解明に興味を持って研究をしている人もいます.

私も離散数学を研究する一人ですが, 特に,組合せデザイン, グラフなどを現実の問題に適用する際に生じる 組合せ構造の差異に起因する最適性の問題に強い興味を持っています.

統計的実験計画法では組合せ配置の研究が重要です. 例えば,4つの物の重さを天秤ばかりで測定するとします. このとき,これらの4つをひとつずつ順に測定してその重さを測る方法もあれば, まず,3つを一方に乗せ,残りのひとつを他方に乗せて,その重さの差を測り, 次に,異なった組合せで3つの組と一つに分けてその差を測ることを合計4回繰り返し, その結果から個々のものの重さを推定する方法もあるでしょう. もっといろいろな方法が考えられると思いますが, 1回の測定で生じる誤差がいずれの測定においても独立で同じ分布に従うならば, どのように測定するのが重さを出来るだけ正確に想定できるのでしょうか? …この問題には,アダマール行列と呼ばれる行列の組合せ構造が深く関与しています. アダマール行列とは,各要素が1と-1からなるn次の正方行列で その転置行列とそれ自身をかけると単位行列のn倍になるような行列です. アダマール行列は,離散数学の分野では組合せデザインや符号理論とも 密接な関係がありますが, 一方でCDMA(Code Division Multiple Access)と呼ばれる 携帯電話などの通信方式にもアダマール行列が用いられています.

暗号の理論もこの20年ほど離散数学の研究分野として研究がなされて来ました. そこには,整数論をはじめ,有限体上の楕円曲線,有限幾何,直交配列, ブロックデザインなど種々の組合せ論を含む代数的理論が用いられています. 暗号の理論は現在では,理論的基礎研究と共にInternet上での商取引, 個人認証などさまざまな応用的研究も盛んに行なわれています. 暗号の理論などで有名な問題を2つ挙げておきましょう.

問題1:2の1億乗を計算するには何回の掛け算が必要でしょう?
問題2:素因数分解をしないで素数かどうか判定することはできるでしょうか?

最近,離散数学が活躍しているもう一つの応用分野に 遺伝子情報解析があります. A, T, G, Cの4種類の塩基からなるDNAの配列から遺伝子の働きや その相互間の関係などを解析するために 統計的・情報科学的アプ ローチが盛んに行なわれていますが, 数万から数百万の長さの塩基列を解析する 効率の良い実験方法の研究にも離散数学が関わってきます. たとえば,数十万人の人のDNAの塩基列のある部分があり, この中に癌に なりやすい遺伝子をもつ人がいるかどうかを検査するのに 一人ずつ検査 をすると数十万回の実験が必要ですが, 癌化し易い遺伝子を持っている人の割合が小さければ, たくさんの人の遺伝子を一まとめにして混ぜ合わせ(これをプールと呼びます) そのプールに対して反応検査をして,その検査で陰性反応を示せば, その中には,誰も問題の遺伝子を持って いる人がいないことが1回の実験でわかります. 一方,陽性であればその中に陽性の遺伝子があることがわかります. ですから,いろいろな組 合せのプールを作って実験を行ない, それらの反応結果から陽性反応を 示すDNAを持つ人を割り出すことも出来るでしょう. このような実験をpooling experimentと呼んでいます. もちろん,実験には,誤差や誤判定がつき物ですから, そのことは考慮しなければなりません. このような問題で,いろいろなプールをどう作ればいいか? また,得られた反応結果から 真に陽性な遺伝子を特定する効率的なアルゴリズムを見出すことも重要です.

このように現実の世界に関連する離散数学のテーマはたくさんあります. 私は,その様な問題から出発してそれに関連する最適な組合せ構造を見出したり, あるいはそのような組合せ構造の存在・構成問題に興味 を持って研究を行なっています.